新道山家では十一月から二月までの冬季メニューのメインに身体の芯から暖まる奉書紙鍋をご用意して皆様をお迎えします。奉書とは昔は公文書に用いられた厚手の和紙で、これを鍋の形に折り込んで、出汁を張り直接飛騨コンロの火にかけます。するとあら不思議、紙で出来ているのに燃えません。紙鍋の中に水気がある内は紙の繊維の隅々まで水分が染み透っているので決して燃え上がらないのです。やがて鍋がフツフツと煮立ってきます、ここで具は召し上がれますが出汁はまだ残しておいてください。普通ですと鍋はマメにアク取りをしますがアクはすべて奉書の繊維が吸い取ってしまいますので手間もかかりません。やがて火が燃え尽きると全ての具材の持ち味が抽出された極上のスープが出来上がります。思う存分贅沢なお味をお楽しみください。折角出来あがったスープです、レンゲでも掬い切れない時は紙鍋をつまんでトンスイで受けますと、最後の一滴までお楽しみいただけます。和紙漉師の技と料理人の知恵が生んだ紙鍋を当店が取り入れてからもう四十年も経つロングセラーとなります。忘年会・新年会のお席ではぜひ山家鍋の絶品の味をお試しください。
亭主・川島利雄